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貯水タンクの鉄・マンガンバクテリアについて |
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2003年1月30日 佐々木俊一 株式会社 石の勘左エ門 TEL 0184-33-3133 FAX 0184-33-3433 |
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はじめに |
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2002年9月7日、(株)石の勘左エ門は、秋田市T社の貯水タンクの点検作業中に、黒色の沈着物を採取した。 この黒色沈着物は、タンクの内壁に厚さ5 − 6 mm の層を成して付着し、石のように硬く、水に接する表面部分が 灰白色の薄い膜に覆われていた(Fig. 1)。この黒色沈着物の成分を分析した結果、主成分は、鉄およびマンガンの 酸化物であることがわかった(Table 1)。 淡水藻研究室では、 黒色沈着物と同時に貯水タンクから採取された水を 受け取り、沈着物の成因を明らかにするため、水中の微生物に関する調査を行ったので、その結果を以下に報告する。 |
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Fig. 1 水槽内壁から剥がれ落ちた黒色沈着物の破片 |
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水中の微生物について 貯水タンクから採取された水には、黄褐色―黒褐色の浮遊物が大量に含まれていた。 この浮遊物の一部をスライドグラスにとり、ホルマリン・グリセリン・アルコール等量混合液で 固定して、カバーグラスをかけて封入し、光学顕微鏡で観察した。その結果、問題の浮遊物は、 その大部分が、水中の鉄やマンガンを酸化し、その酸化物を細胞の内外に沈着させた 鉄・マンガンバクテリアであることがわかった。シデロカプサと思われるものを含め、様々な 鉄・マンガンバクテリアが観察されたが、今回は、大量に出現したメタロゲニウムとレプトスリクス について詳しく観察したので、以下に報告する。
メタロゲニウム aff. Metallogenium symbioticum Zavarzin
20億年以上も昔の岩石から微化石としても記載され、現生の淡水プランクトン、あるいは湖底堆積物中にも 広く分布し、マンガンを沈着させることで知られるが、生物であるかどうかも含め、謎の多い存在。 属名「メタロゲニウム」は、「金属を産出するもの( metallos+genium )」を意味するラテン語。この微生物によって 湖底堆積物中の鉱石 ( ore )が形成されるとして、名付けられた。 観察結果 浮遊物の固定標本(プレパラート)では、褐色―黒褐色の星状構造物が、いたるところ大量に観察された(Fig. 2 B, C 参照)。 この星状構造物は、中心から放射状に伸びる多数の繊維で構成されている。繊維は偏平で、幅0.2 - 1.2 m、先端に向かって 次第に細まり、長さ8 - 10 mにまで伸びて、不規則に曲がる。 |
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この星状構造物には、初期の星から生長したと思われるさまざまな段階が観察された(Fig. 3 参照)。 つまり星は、生長するにつれて、繊維が次第に葉状に幅広くなり、全体がより黒っぽくなり、 ついには星状の突起の目立たない黒褐色の塊になる。 |
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星状構造形成の最初の段階が見つかるのはごくまれであったが、一例だけ、直径1mほどの褐色の球体から長さ1- 3 mの 糸のような褐色の繊維が放射状に伸びる小さな星を観察した(Fig. 3 A)。 中心の球体は中空で、直径0.5 - 0.8 mの内部空間が直接褐色の殻に包まれているように見える。 この中心部の中空の球体は、これより大きな星では見えなくなってしまう。 これに対して、星状構造が形成される前の段階かと思われる褐色―黒褐色の微小球体は、いたるところで観察された(Fig. 2 A)。 この球体も中空で、直径0.5 - 1.0 mの内部空間が褐色―黒褐色の殻に直接包まれ、そのいくつかでは殻の表面に細かな突起が あるように見えた。 |
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考察 Zavarzin (Bergey’s Manual, p. 1986-1989)によれば、メタロゲニウム属は、放射状に伸びる多数の先細の繊維にマンガン酸化物を 沈着させながら発達する星状構造の段階を持つ点で、他のマンガン酸化型微生物から区別され、これまでに2種が記載されている。 今回観察した星状構造物は、先細の繊維の内部に球菌などの細胞をいっさい持たず、また繊維の先端からの出芽も見られないこと、 その他の形態的特徴において、 Metallogenium symbioticum Zavarzinによく一致する。 また、同じくZavarzinによれば、Metallogenium symbioticumの繁殖は、細胞壁を持たない球状細胞(マイコプラズマ)による。 球状細胞段階のメタロゲニウムは、混合培養された菌類やバクテリアに感染し、寄生することによって、マンガンを酸化する能力を 獲得して、細胞表面にマンガン酸化物を沈着させ、放射状の繊維を形成するとともに、宿主細胞の生長阻害と溶解を引き起こすという。 今回、星状構造物とともに頻繁に観察された褐色―黒褐色の微小球体(Fig. 2A)が、細胞表面にマンガン酸化物を沈着させた メタロゲニウムであるかどうかは、確認できなかった。問題の微小球体は、光学顕微鏡では、内部が中空(無構造)に見え、 細胞壁の有無も確認できないからである。しかし、この微小球体は、中空部分の大きさが球状細胞段階のメタロゲニウムの大きさに ほぼ一致し、また、マンガン酸化物を示唆する黒褐色の殻に直接包まれて見えることから、放射状の繊維を形成する前の Metallogenium symbioticumである可能性が高いと思われる。 |
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レプトスリクス aff. Leptothrix discophora Dorff
鉄やマンガンを含む水に出現する無色の棹菌 ( 円筒形の細菌 )で、鎖状に連なって糸状体を作り、周囲に細長い菅状の鞘を 形成する。この鞘そのもの、あるいは鞘の表面に鉄やマンガンの酸化物を沈着させることで知られる。属名レプトスリクスは、 「細い(leptus) + 毛(thrix)」を意味するラテン語。
観察結果 浮遊物の固定標本中には、あちこちに暗褐色の沈着物に覆われた細長い管が観察された。この菅、すなわち鞘 (Sheath)は、 直径1 - 2 mで、表面が厚さ数 mから10 mに達する綿状の沈着物の層に覆われている。ほとんどの鞘の内部は、すでに 細菌が脱出して空(Fig. 3 A)であるが、中には一列に並んだ数個あるいは多数個の細胞が見られるもの(Fig.3 B-1, B-2) もある。細胞は、直径0.5 - 1.2 m、長さは最長3 mであるが、分裂して長さが半分になるため、長さ1.5 mの細胞と3mの 細胞が同一鞘中に混在することもある。 |
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考察 Bergey’s Manualの検索表によれば、今回観察されたレプトスリクスは、 細胞や鞘の大きさ、沈着物、その他の形態的特徴から、 Leptothrix discophora Dorffにほぼ一致すると思われる。 Mulder ( Bergey’s Manual, p. 1998 - 2003 )によれば、Leptothrix discophoraは、細胞が他の種よりも小さく、また、もっぱら汚染の ない天然の水路や井戸水に出現する種であって、実験室で培地に有機栄養物を加えても成長効果がほとんどないという。 しかし、この種は、マンガンを酸化し、鉄酸化物を沈着させる能力が非常に高く、マンガンと鉄をともに含む培地では、鞘が 暗褐色の綿状の層( 鉄とマンガンの酸化物 )に厚く覆われ、全体の直径は20 -25 mにも達するようになる。また、この場合、 鞘の全体はその成長端に向かって先細の形になるという。 |
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まとめ 貯水タンクの水の浮遊物中には、Metallogenium symbioticumの星状構造物、およびその前段階と思われる微小球体が、著しく 大量に観察された。また、鉄とマンガンの酸化物を大量に沈着させたLeptothrix discophoraも、頻繁に観察された。さらに、 今回は詳しく観察できなかったが、黄褐色の沈着物に覆われたSiderocapsaと思われるカプセルも、かなり頻繁に観察された。 このように様々な鉄・マンガンバクテリアが存在するということは、その水がバクテリアの増殖を支えるだけの鉄とマンガンを 十分に含んでいるということであり、また、特に、増殖のために宿主を必要とするMetallogeniumにとっては、他のいずれかの バクテリアに寄生し、マンガン酸化能力を獲得するのが容易な状況にあることを意味していると思われる。 ところで、前述のように、メタロゲニウムは、水中のマンガンを酸化して沈着させ、湖底堆積物中に鉱石(ore)を形成する 微生物として知られている。同様の現象は、レプトスリクスでも知られており、Mulder( Bergey’s Manual, p. 1998 - 2003 )によれば、 Leptothrix ochraceaは、水中の鉄とマンガンを酸化して沼鉄鉱(bog ore)を形成するという。 従って、今回貯水タンク内壁から採取された鉱物様の黒色沈着物も、おそらく、水中に存在するMetallogenium symbioticumや Leptothrix discophoraなど、鉄マンガンバクテリアによって形成された可能性が高いと思われる。 |
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参考文献 Bergey’s manual of systematic bacteriology I ーIV : ed. John G. Holt. Williams & Wilkins. 1984-1989 |
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